2020.08vol.16
まだまだ感染症が心配な毎日ですね。
このごろ外来ではマスクの着用による皮膚炎を大変よく拝見するようになりました。それらの症状を総称して「マスク皮膚炎」と呼ぶようになり、皮膚科のトピックとなっています。本日はその「マスク皮膚炎」についてお話しします。
感染拡大予防のために最も手軽に取り入れられるマスク。今やなくてはならないものとなっており、マスクに関連した皮膚のトラブルを主訴に皮膚科を受診される方が増えています。
今までにない長時間のマスク着用や、気温の上昇が大きく関わっていると思われます。
便宜上、新聞やテレビでは「マスク皮膚炎」と総称していますが、これは正式な診断名ではありません。マスク着用によって生じたさまざまな疾患と、もともとあった疾患がマスク着用によって悪化した場合に総称して使われる言葉です。さまざまな症状や対処法についてお話ししたいと思います。
一番多く拝見する症状は顔面や耳の赤み、かゆみです。
マスクをして会話をしたり表情を動かしたりするとマスクが動き、顔面の皮膚と擦れます。もともと呼気によって角質には水分が含まれ柔らかくなっていますから、マスクの度重なる擦れが刺激となり、角層をはがして表面を傷つけバリア機能を悪化させます。そして炎症を起こし、赤み・かゆみ(炎症)を起こします。症状が続き湿疹となることも。
耳のうしろ、マスクのひもが当たる部分にも擦れによる赤み、かゆみが見られることがあります。また、体質によってはマスクに含まれる成分でかぶれ(接触皮膚炎)が起こることもあります。
次によく拝見するのはニキビです。
マスクの擦れにより毛穴に皮脂が詰まることや、もともとあったニキビに刺激が加わり治りにくくなること、またマスクをし続ける環境で不潔になりやすいことが原因と考えられます。
また、乾燥も見られます。
マスク着用時は常に呼気でマスクと皮膚の間は湿度が保たれますが、マスクを外すと余分な水分とともに角質表面の必要な水分まで蒸発し、乾燥が進行します。
これらの症状はいずれもマスクを着用することで生じたり、悪化したりしています。マスクを着用しなければ改善するのは当然ですが、着用しないと感染のリスクがあるため心配です。
マスクを着用しながら上手に「マスク皮膚炎」を予防する方法があります。
1.まずはかぶれない素材を選ぶこと。つけて数分でマスクに触れる部分がかゆくなってくるようならかぶれ(接触皮膚炎)が疑われます。すぐに外し、かゆみが落ち着いてから別の素材のマスクを試してみましょう。
2.できるだけ肌当たりの優しい、通気性の良いマスクを選びましょう。医療現場ではより感染予防に効果的な使い捨て不織布マスクを使用しますが、特別感染リスクの高い場所でなければ布マスクでも構いません。使ってみてチクチクしない快適なものを、いつでも手軽につけられるよう複数枚用意しておきましょう。
3.摩擦が気になる方はマスクと肌の間に柔らかい不織布やハンカチを挟むと摩擦軽減に効果的です。感染予防効果を高めるのにも役に立ちますが、あまり厚いと呼吸がしづらく暑くなりますので注意しましょう。
4.ニキビや湿疹は早めに皮膚科を受診し、外用・内服でしっかり治療しましょう。マスクで隠れるからと言って放置しているとマスクの刺激でさらに悪化する可能性があります。
5.他の方との距離を保てる屋外や、自宅ではマスクを外しましょう。
6.蒸れたり汗をかいたりした場合はこまめに清潔なタオルで拭きましょう。
7.マスクは常に清潔に。使い捨てマスクは一日使用したら取り換え、布マスクは毎日洗濯しましょう。
8. 耳の後ろが痛くなる場合はサイズが小さい可能性があります。大きめのサイズを試してみましょう。布やガーゼを耳のうしろに当てたり、絆創膏を貼ったりして直接ひもが耳に触れるのを防ぐのも効果的です。
次にスキンケアのポイントです。
皮膚の保湿を心がけましょう。保湿をして肌を整えておくとバリア機能が正常に働き、刺激による炎症が起こりにくくなります。乾燥しやすい方は、普段のお手入れでの保湿に加え、マスク着用前に口周りの保湿をすると良いでしょう。
それでも軽いかゆみが出る場合は
・刺激の少ない成分で優しく洗顔
・敏感肌用の刺激の少ない化粧品での保湿やUVケア
を行うと良いでしょう。
マスクをしている部分はノーメークの方が多いようです。しかし保護のためにもベースメークは欠かさず行いましょう。マスクをしていても日差しは降り注ぎます。外出時は必ず顔全体に日焼け止めを使ってUVケアをなさると良いでしょう。
口紅をつけないことで唇が荒れる方も拝見します。保湿力のあるリップクリームでリップケアも行いましょう。
マスクの品不足も解消され、これからの季節に向けて通気性の良いマスク、冷感マスクなど、たくさんの製品が発売されています。毎日使うものですから自分に合ったものを見つけ、感染予防をしながら「マスク皮膚炎」への対策もしっかり致しましょう。
嵯峨 真輝 (さが まき)先生
学生の頃から小児皮膚科や女性特有の皮膚科疾患に特に興味を持って学んできました。私自身も妊娠・出産を経験し、子供を育てながら医師の仕事を続けております。